養蜂業にとって、巣脾は一番と言っていいくらいに大切な道具です。
巣脾は、ミツバチが分泌したミツロウで、巣礎一面に巣房を盛り上げて作ったものですが、ミツ
ロウを1g分泌するのに、はちみつ8gを原料にするため、結構なコストがかかっているのです。
しかし、巣脾は継箱で貯蜜専用に使うのであれば、壊れるまで何年でも使えますし、育虫箱で
産卵・育児専用に使う場合でも、6年ほど使うことができます。(脱皮など細かいゴミが堆積
すると巣房が狭くなり、体格の良い成虫が育たなくなるため)
また、分蜂熱を起こしかけても空巣脾を入れてやればすぐに治まり、貯蜜に精を出してくれる
ため、とても大切な養蜂道具なのです。しかし、巣脾は適切な処理をして保管しなければ「スム
シ」という大敵に食い破られて台無しになってしまうのです。
スムシとは、ハチノスツヅリガという蛾の幼虫で、養蜂家の頭を悩ます害虫です。
ハチノスツヅリガは、特に7月〜9月に多く、夕方から夜間にかけて巣箱に侵入すると、巣箱の底
や隅っこ、巣脾の目立たない所に小さな卵を産みます。
卵は気温が高ければば数日で、低ければ1ヶ月ほどで孵化してスムシになります。
スムシは特に花粉が大好物で、他にも巣房に残ったミツバチの幼虫の脱皮や、小さなゴミを食べ
ます。それで、巣脾を食い破りながらそれらを探すため、使い物にならないくらいにボロボロ
にされてしまうのです。
巣脾の一番良い保管方法といえば、強盛群の巣箱に入れておくことです。
強盛群のミツバチは、巣脾を守ろうとスムシを攻撃し、巣箱から追い出すので預けて安心です。
しかし、越夏期はどうしてもミツバチの数が減ってしまうため、合同により強盛群を作ることは
できますが、合同した分、蜂群数が減るため巣脾が余ってしまいます。
合同せずに弱小群に多くの巣脾を入れておくと、これを守りきれず、スムシにボロボロにされて
しまいます。そして、それが逃去の原因にもなるのです。
そこで、ミツバチが集まっていない余った巣脾を見つけたら巣箱から抜き取り、適切な処置をし
て大切に保管しなければなりません。
この適切な処置とは、スムシの卵や幼虫を駆虫することです。
一度、巣箱に入れた巣脾であれば、ハチノスツヅリガが産卵している可能性が高いので、駆虫し
なければなりません。
駆虫しなければ、保管している間にスムシが孵化して、巣脾をボロボロにしてしまうのです。
方法としては、巣脾を業務用の大きな冷凍庫に一昼夜入れて凍死させるのが一番簡単ですが、
冷凍庫がなければ、ドライアイスを使う方法もあります。
@ 巣脾が数枚入る大きさのフタ付き容器を用意します。
A 容器に巣脾と共に、細かく砕いたドライアイスを500g入れてフタをします。
B そのまま丸一日放置すれば、卵、幼虫共に退治することができます。
ドライアイスはスーパーでも安く手に入りますし、全くの無害で使いやすい上に、駆虫効果も
高いのでオススメの方法です。
しかしなぜ、ドライアイスでスムシを退治できるのか?
それは、容器の中でドライアイスが気化して炭酸ガスになると、容器内の酸素濃度が低下して
ついにはゼロになり、酸欠状態になるため退治することができるのです。
それで、ドライアイスが気化しやすいように、なるべく細かく砕いたものを多く使用すること
で、駆虫効果が高まるのです。
また、スムシ被害は5月〜11月までで、11月〜4月までの寒い時期は発生しません。
よって、11月以降に余った巣脾を取り出して保管する場合、翌年の4月までに強盛群の巣箱に
戻すのであれば、駆虫することなく保管することができます。
駆虫した巣脾は、また使う時まで空の巣箱に入れて保管しますが、その他の虫やネズミが入り
込まないように、フタをして巣門を閉じておきましょう。