女王蜂を人工養成でたくさん作っても、これが未交尾王のままでは全く意味がありません。
無事に交尾に成功し、産卵が確認できてはじめて女王蜂としての価値が生まれます。
交尾させるには、雄蜂も用意しなければなりませんが、この雄蜂のいる蜂群を父群といいます。
父群も、女王蜂の種母群と同様に優秀な系統(採蜜力が高い)を選ぶ必要があります。
そして、父群が決まったら、あらかじめ養蜂場から2q以上離れた場所に移しておかなければ
なりません。
その理由は、同じ養蜂場内に交尾箱を設置した場合、せっかく優秀な父群を選んだとしても、
別の優秀ではない蜂群の雄蜂と交尾する確率が高くなってしまうからです。
みつばちの行動範囲は巣箱からおよそ半径2qのため、交尾群と父群を他群から隔離するとい
う意味で、これだけの距離をとる必要があるのです。
また、みつばちは、元の巣箱があった場所へ戻る習性があるため、交尾群を父群のもとへ連れ
て行っても、2q以上離れていなければ、元の場所へ戻ろうとするため、交尾群として成立し
なくなるのです。
女王蜂の交尾を促進させる一番の方法は、交尾群を無卵、無蜂児にして、すべて貯蜜巣脾
(花粉を含む)にすることです。
ここで注意しなければならないのは、蜜切れを起こさないように給餌を絶やさないことです。
それは、小さな交尾箱で構成された交尾群は、みつばちの数が少ないため、単独では生活でき
ないからです。また、蜜切れを起こすと、働き蜂が女王蜂を攻撃する傾向が高くなるのです。
出房して一週間経った頃、風のない晴れた日を選んで、女王蜂は交尾飛行へ出ます。
しかし、全ての女王蜂が交尾に成功するとは限りませんし、交尾に成功しても無事に戻って
来られるとも限りません。
途中で鳥に食べられたり、クモの巣にかかったりと、危険はいくらでもあるのです。
こうして無王状態になった交尾群の働き蜂は、女王不在に気付くと、いわゆる「無王騒ぎ」を
起こします。
無王騒ぎとは、みつばちの一群全体が悲しそうに羽を震わせると、お尻を立てて芳香腺から
蜂群特有の匂いを出して、巣箱の外で振りまく行為です。
これは、もしかしたら女王蜂が迷子になっているかもしれないという期待から、「自分たちの
巣はここだよ!」というシグナルとして匂いを振りまいているのです。
しかし、多くの交尾箱を隣接して置いてある場合は、交尾に成功した女王蜂(交了王)が、
無王騒ぎをしている蜂群の匂いにつられて、よその巣箱へ入ってしまうことがあります。
この場合、その巣箱の働き蜂は、自分たちの女王蜂ではないと判ると攻撃を仕掛けてくるため、
たとえ殺されなくともボロボロにされてしまうのです。
よって、無王騒ぎを起こしている交尾群がいれば、巣門に自動分蜂器を設置しなければなりま
せん。自動分蜂器とは、体の大きな女王蜂は通過できない幅の格子が付けられた養蜂器具で、
これを設置しておけば、無王騒ぎを起こしている巣箱に入り込まずに済むというわけです。
交尾に成功した女王蜂は、2〜3日後には産卵を始めます。
産卵が確認できたら、この交尾群を無王群に合同するか、女王蜂だけを無王群に誘入します。
もし、この交尾群をそのまま独立した蜂群に仕立てる場合は、他の蜂群から蜂児枠を入れて
強盛を図ります。しかし、まだ産卵が進んでいない内にいきなり蜂児が増えると、働き蜂が
動揺して女王蜂を攻撃するきっかけになります。
よそから蜂児枠を入れる場合は、女王蜂の産卵で生まれた幼虫が、出房する頃まで待った方が
良いでしょう。
産卵を開始したばかりの新女王蜂の産卵力はとても旺盛で、通常では、一つの巣房に一つずつ
産卵をするところ、複数の産卵がみられる場合があります。
しかし、これは異常産卵ではなく、しばらくすれば落ち着き正常な産卵になるため、心配する
ことはありません。
女王蜂の中には、たまに雄蜂の卵しか産まないものがいますが、これは完全に異常産卵です。
これは、もともと生殖器に異常があったと考えられ、交尾に成功して産卵しても雄蜂しか生ま
れないのです。
また、健康な女王蜂でも、秋に出房したものは、交尾をせずにそのまま越冬に入ることになり、
翌春に雄蜂の卵しか産みません。
これらの異常産卵は、巣房の房蓋をみれば判断できます。
通常、働蜂房の房蓋は平らですが、一回り大きい雄蜂房の房蓋は凸状になっています。
それで、働蜂房にもかかわらず凸状になっていれば、異常産卵だと判断できるわけです。
このような異常産卵をする女王蜂を放っておいても、蜂群の強盛が成り立ちませんので、早急に
正常な女王蜂と交換しなければなりません。
また、通常では、出房してから遅くとも半月以内に交尾を済ませて産卵を開始しますが、いつま
でたっても交尾に成功しない、または交尾飛行にも出ないといった女王蜂は、生殖器や羽に異常
がある可能性が高いため、これも早急に交換する方が得策です。