日本ではあまり見かけませんが、海外の養蜂場を見ると色の付いた巣箱を見かけます。
なかなか可愛いですよね。でも、何の意味もなく色を付けているわけではないんですよ。
それは、蜜を集めに飛んでいった働きバチが帰って来たときに、自分の巣箱がどれなのか分か
りやすいように、一つのヒントとして色を付けているのです。
実は、ミツバチの色彩感覚はものすごく貧弱で、実験によって解明されたのは、ミツバチは、
黒、黄、青緑、青、白、紫外線の6つの色しか判別できないのです。
紫外線は色の波長の関係で、人間などカメラ眼とよばれる構造の目では見えませんが、昆虫の
複眼とよばれる小さな目がたくさん集まって一つの目になっている構造の目では見えるのです。
一体、どんな色なのでしょう?
そのような理由で、写真のように黄色、白、青を中心に色付けされているわけですが、黒は
太陽の熱を吸収してしまい、巣内が暑くなってしまうので使われていません。
オレンジやピンクもありますが、これらの色に対してミツバチは色盲なのです。
一体なぜ、そんな色を付けたのか?
やっぱり、ちょっとカラフルに可愛く見せたかったのかな?(笑)
ミツバチは成虫になって1週間ほど経った晴れの日の昼過ぎ頃、巣箱から出ると巣門(巣の出
入り口)に頭を向けてゆっくりと低空飛行します。(強盛群で1週間後、若蜂ばかりの小群では
3〜4日でみられる)そして次第に円を描くように高く飛ぶと、その数分間の短い飛行で自分の
巣箱の位置を覚えます。
それは単に巣箱だけを見ているのではなく、そのまわりに何があるのか、例えば巣箱のまわり
にある木や石などの位置関係など全体的な風景としてとらえ、その中で自分の巣箱の位置を
記憶するのです。そうでないと、日本の養蜂の巣箱のように全部木の色だと判別できなくなり
ますもんね。
この巣箱の位置を覚えるための飛行を「時騒ぎ」といいますが、お昼過ぎに巣門のあたりが多
くの若蜂で騒がしくなるのでこのようによばれています。
ミツバチの巣には、それぞれ特有の匂いがあります。人間でも、各個人の家に特有の匂いって
ありますよね。ミツバチも同じなんです。
そして、この匂いも帰巣のヒントの一つと考えられています。
それは、時騒ぎや春の採蜜シーズンには、働きバチが巣門のまえに並んで、お腹にある「芳香
腺」を開いて外にお尻を向けて匂いを振りまき、仲間が迷わず自分の巣に帰ってくるように
匂いのヒントを与えているのです。
色や風景を判別できたとしても、同じ色の巣箱や、だだっ広い草原に巣箱があれば視覚として
のヒントが少ないので、匂いが立派なヒントになるわけです。
しかし、巣箱の色や匂いのヒントがあるにしても、その近くまで来ないとどれが自分の巣箱か
分かりません。では、花畑に飛んで行った働きバチは、何をヒントにして巣箱の方向を見定め
ているのでしょう?
それは、日光です。ミツバチは、仲間に蜜源のありかを教えるときに「8の字ダンス」を踊り
ますが、巣箱から見える太陽の位置と蜜源の角度をダンスで表して方角を示しているのです。
つまり、ミツバチは本能的に太陽の光を方角のヒントに使うことができるのです。
よって、巣箱から出て行ったときに左38度の角度に太陽があれば、帰りは右38度の角度に太陽
が見えるように飛んでいけば巣箱がある方向になるというわけです。
蜜源に飛んで行って蜜集めをしていたら、時間と共に太陽の位置も変わるだろうと思われるか
もしれませんが、ミツバチが巣を出て行って帰るまでの時間はほんの数分〜数十分で、太陽の
位置に大した変化はないため問題ないのです。
以上のように視覚、匂い、太陽の位置がミツバチの帰巣のヒントになっているわけですが、
それだけでは説明できない事実があります。それは、例えば巣箱の位置を1メートルずらした
だけでも、ミツバチは元の場所に集まってしまい迷っているのです。
すぐ近くに色の付いた自分の巣箱があり、仲間が匂いを出していてもしばらく迷っているの
です。「あれ〜っ?確かここだったはずなんだけどなぁ・・」って感じで。可愛いですよね。
これは、ミツバチの触角に絶対的な位置感覚を感じる器官があり、視覚や嗅覚が働く前にそれ
が働くからではないかといわれています。
しかし、そうはいっても流蜜期になると、同じ色や形の巣箱を使っている養蜂場では、間違え
てよその巣箱に入ってしまうミツバチが結構いるのは不思議なところです。
蜜がたくさん採れて、嬉しくて興奮して間違えてよその家に入ってしまうのでしょうか?(笑)
そういう見方をすると、”感覚”より”感情”の方が先に働いているみたいで微笑ましいですね。
間違えてよその巣箱に入ったミツバチは、匂いが違うためにその巣の働き蜂に追い出されてし
まいます。最後は自分の巣箱に帰るのでしょうが、ミツバチの帰巣本能とは絶対的なものでは
なく、頑張って身に付けたけど、ちょっと曖昧なところもある後天的な「能力」なのかもしれ
ませんね。